筋肉少女帯“新人”

music070917.jpg筋肉少女帯“新人”は期待を裏切らない。

良くも悪くも相変わらずのロック魂で我が道を行き続けている。ロックと聞いてGRAYみたいなものを思い浮かべるJ-POPファンには、そういうのとは少し違うと予め断りを入れておくべきかもしれない。あれはJ-POPの中のサブジャンルとしてのロックなんだろうとぼくなんかは思っている。その点、筋少の音楽はとてもJ-POPとはいえない。基本はメタルである。

そもそも日本のメジャー音楽シーンにあって、ジャンルミュージック的な要素が多少なりとも芽を出し始めたのは極々近年のことだと思う。インディーズがメジャー化し始めたことで、パンク、メタル、プログレといった正しくロック系に連なるサブジャンルを吸収したミクスチュアバンドがやっとメジャーシーンに登場し始めた。門外漢にはそんなふうに見える。

その昔アングラからメジャーに飛び出した筋少は、そのスタイルを変えなかった、あるいは変えられなかったほとんど唯一バンドだった。その特異な個性に一部熱狂的なファン層を得るも、広く一般には知名度ほどにその楽曲を聴かれていたわけではなかったようだ。早くから大槻ケンヂ個人の知名度がバンドの知名度を凌駕していたことも無関係ではないだろう。

何しろ彼個人からヘヴィメタルの匂いを嗅ぎ取ることは難しい。

そもそも大槻ケンヂは音楽の人では多分ない。そして、筋少に音楽的な統一感が希薄なのは、メンバー各自の音楽性をそのまま作品に取り込んできたせいだろう。メジャーデビュー前後には三柴江戸蔵(三柴理)、メンバー定着後は橘高文彦、本城聡章といった面々の音楽性が如実に作品中に表れている。特に三柴と橘高の両名は筋少の特異性を際立たせていた。

まずはなんといっても三柴理のピアノである。クラシックへの理解と大作志向というプログレ路線を牽引した異才である。そして、90年代筋少のヘヴィメタル路線を支えたのが橘高文彦のギターである。ファンとしては実に残念なことに、三柴は橘高の加入と入れ替わりに脱退、安定期の筋少には参加していない。最初に基本はメタルだといったのはこのためだ。

ところが、だ。今回の復活アルバムでは三柴理がサポートメンバーとして多くの楽曲に参加しているのである。大槻ケンヂ(Vocal)、内田雄一郎(Bass)、本城聡章(Guitar)、橘高文彦(Guitar)、三柴理(Piano,Keyboard)がついに一堂に会したわけである。こうなるとどうしても、太田明(Drums)が戻ってこなかったことだけが惜しまれてならない。

ともあれ、ここに筋少サウンドは見事復活を遂げた。

アルバムは三柴理の手になるインストで幕を開ける。その曲名がいきなり‘Period’というのがまた筋少らしい。まずはここで一区切り、というほどの意味だろうか。‘仲直りのテーマ’へと続き、再び現れる三柴によるインスト曲、13曲目の‘黎明’までがひとつの流れを形作っている。そしてラスト2曲はアンコール。そんなライブ風の構成になっている。

オーケンのダークな詩情と橘高のメタル志向が炸裂する‘トリフィドの日が来ても二人だけは生き抜く'、‘ヘドバン発電所'、‘交渉人とロザリア'、‘愛を撃ち殺せ!'辺りはアングラ少年少女を熱狂させた往年の筋少節を髣髴させる王道曲。以前からのファンにとってこの路線の充実は嬉しい知らせだろう。ついでに新しいファン層にも届くといいのだけれど。

オーケンののほほんプラス本城ポップ路線では‘その後 or 続き'があるけれど、こちらは少々不発気味かもしれない。どちらかといえばエンディングを飾る‘新人バンドのテーマ’の方がらしい。常に自らを客観視し、自己否定と自己肯定の綯い交ぜになった内面を一見コミカルポップな詩と曲にのせて唄う。これもまた筋少曲のひとつの典型である。

再録曲の中では‘イワンのばか'07’が好い。以前の録音よりもハイテンポで硬質なスラッシュメタルに仕上がっている。‘Guru 最終形'については、個人的には過剰にドラマティックに演出されていたアンダーグラウンド・サーチライ名義の‘Guru’の方が好みではあるけれど、楽曲としてみれば演出を削ぎ落とした最終形の方が完成度は高いかもしれない。

一曲一曲についてここでこれ以上語ることはやめておく。ただ、全体を通して復活を歓迎すべき出来だと思う。とてもメンバーが40代に突入した日本のバンドの音とは思えない。実のところ、ヘヴィメタルとして目新しさは感じられないし、今の時代の空気を反映した詩世界が展開されているわけでもない。けれども、そのある種の頑迷さが筋少なのだと思う。

とにもかくにも、末永く続けてもらいたいバンドである。

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